耳鳴りの音は、「ゴー」、「ブー」、などの低音のもの、「ピー」、「キーン」などの金属音のようなもの、一種類だけの音のものから、いくつかの音が混ざったものなど様々ありますが、音の種類と病気の関連は解明されていません。
また、内耳や脳に障害が起きている場合は耳鳴りと同時に、回転性や不動性のめまいが現れます。
今回は耳鳴りに有効な漢方を紹介します。
1.耳鳴りから考えられる病気
まずは耳鳴りで考えられる病気について9つご紹介します。
1-1.更年期障害
更年期になると女性ホルモンが急激に減少し、自律神経の働きが不安定になります。
その結果、耳鳴りや、めまい、ほてりなど様々な不快症状が現れてきます。
平衡感覚と聴覚の器官は近くにあるために、めまいが起こると耳鳴りも起こりやすくなります。
更年期における耳鳴りの症状には当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうききぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)が良いでしょう。
1-2.メニエール病
メニエール病は聴覚や平衡感覚の機能が低下する病気で、30~50代で発症することが多いです。
回転性のめまいにともなう耳鳴りと難聴が特徴の病です。
立っていることができないほど自分の周りがぐるぐると大きく回転しているような感覚になり、耳鳴りや難聴や吐き気などを伴います。原因は解明されていませんが、内耳の炎症や、ストレスや過労により発症することもあります。
薬物療法や、手術で症状が改善されます。
メニエール病の治療は難しいですが、漢方では、真武湯(しんぶとう)、半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう)が用いられます。
1-3.自律神経失調症
耳や脳には以上が見られないけれども不調が続く場合は、自律神経の働きに問題がある場合があります。
内耳からの平衡感覚に関する情報は脳幹を経て、大脳に到達しますが、脳幹は自律神経のバランスを調整する中枢でもあることから、内耳は自立神経と密接な関係があります。
自律神経失調症における耳鳴りの症状には柴胡桂枝乾姜湯(さいこけいしかんきょうとう)がよいでしょう。
1-4.外耳道炎
耳の穴の入口から鼓膜までの部分を外耳道といい、この外耳道が海水浴や入浴の際に汚れた水が侵入したり耳掃除などで傷が付いたりし最近が侵入することで細菌に感染し炎症を起こす病気です。
食事で咀嚼したり耳を触ったりすることで激痛が走る症状があります。悪化すると膿ができることがあります。
外耳道を清潔に保ち、抗生物質や軟膏で治療します。
外耳道炎には小柴胡湯(しょうさいことう)が良いでしょう。
1-5.中耳炎
鼓膜の奥の中耳に起こる炎症のことです。
急性中耳炎は風邪などにより、呼吸器に炎症が起こり、その細菌が耳管に入ることで感染します。
激しい耳の痛みや熱が出たり、耳が塞がれたような感覚が起こります。
慢性中耳炎は耳垂れと難聴がみられ、症状が進むと痛みや、頭痛が起こります。
治療としては、抗生物質や鎮痛剤が処方されます。
抗生物質でお腹を壊す方には漢方が安心です。柴胡桂枝乾姜湯(さいこけいしかんきょうとう)、防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)などが適しています。
1-6.耳管狭窄症
中耳腔と鼻の奥に存在する上咽頭は、耳管とよばれる管でつながっています。通常この管は閉鎖されていますが、あくびをしたり、唾液を飲み込んだりする時に開いて中耳が換気され、鼓室と外耳道の気圧を平行に保つ働きをします。
この働きがうまくいかなくなると、耳がこもったようになったり、自分の呼吸音が聞こえたり、不快な症状を起こします。
原因としては、風邪に伴う上気道炎や、上咽頭に腫瘍ができたりした場合などに起こります。
耳管狭窄症には小柴胡湯(しょうさいことう)が適しています。
1-7.突発性難聴
突然、片側の耳が聞こえなくなる病気で原因のはっきりしないものをいいます。
突発性難聴の程度はさまざまで耳が詰まったように感じる軽度のものから、全く聞こえなくなるものまで症状には幅があります。
多くは、片方の耳だけに起こり、発生と同時に耳鳴りや回転性のめまいや吐き気を生じることがあります。
メニエール病と似ていますが突発性難聴は一度きりのもので繰り返さないのが特徴です。
一般的に50~60歳代の発症が多いですが、若い世代の発症も目立つようになっています。
漢方は、小柴胡湯(しょうさいことう)や当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうききぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)などが効果があります。
1-8.聴神経腫瘍
耳鳴りやめまいを訴える人に対して、神経疾患の専門医が見逃してはいけない病気として疑うのがこの聴神経腫瘍です。
耳の内耳にある内耳神経にできる良性の腫瘍のことをいいます。
初期の症状としては片側の耳に軽い難聴や耳鳴りが起こり、フワフワとするめまいが現れることがあります。
徐々に進行する難聴が特徴です。
やがて主要が大きくなると小脳まで達し、脳幹を圧迫することにより、めまいがひどくなります。
内耳神経に近い位置にある顔面神経まで障害が及ぶと、顔面神経麻痺が起こります。初期症状はメニエール病と似ているため、見極めが重要になってきます。
頭部CT検査や、MRI検査による鑑別診断を行わなければなりません。
漢方は、八味地黄丸(はちみじおうがん)が効果があります。
1-9.ダイエットによるもの
耳鳴りは全身の健康と深く結びついています。極端な減量による栄養不足が不快の原因になることもあります。
出典:めまい・耳鳴り・頭痛の正しい治し方と最新治療 著者 清水俊彦
出典:症状でわかる女性の医学BOOK 著者 対馬ルリ子
出典:難聴・めまい・耳鳴りを解消する 著者 神尾友和
2.漢方薬が耳鳴りに効く
耳鳴りについては原因がよくつかめず、根本的な治療も確立されていないのが現状です。
そんな耳鳴りの症状には、漢方薬が効果があります。
漢方医学では、五官「鼻目口下耳」と五臓にはつながりがあると考えられており、耳は腎と関係の深い器官と考えられています。
言い換えると、耳の状態は人の健康状態を表しているといえます。
漢方医学で言う腎とは、肝臓の働き以外に、内分泌(ホルモン)系、カルシウム代謝、免疫系、脊髄、脳まですべてを司るような幅広い意味があります。
この腎精の不足から、耳鳴りが起こると考えられています。
虚証タイプの人の耳鳴りの漢方薬
まず虚証タイプに向く耳鳴りに向く漢方薬です。
虚証タイプとは漢方独特の考えで体力がなく疲れやすい体質で顔色は青白く、下痢しやすい体質のことです。
虚証の方の漢方は腎を強化する補腎薬を中心に六味地黄丸(ろくみじおうがん)の成分に磁石を加えた耳鳴丸(じめいがん)のような処方があります。
2-1.耳鳴丸(じめいがん)
虚証向け
その名のとおり耳鳴りの代表的な漢方です。
貧血性の耳鳴りに効果があります。
疲れやすく足腰がだるい、手足の火照り、口が乾くなどの症状のある人に向いています。
2-2.真武湯(しんぶとう)
虚証向け
新陳代謝が衰えて腹痛や下痢をしやすい、手足が冷えて疲れやすく、やせ型、メニエール病の方に向いています。
水分の循環を良くし体全体の機能を高めます。
体力が有り、赤ら顔の実証の人や高熱や炎症のある人には向いていません。
2-3.半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう)
虚証向け
メニエール病に主に処方される漢方です。
消化機能の低下が原因でめまいや耳鳴り、頭痛がある人に。
普段から胃が弱く、頭痛、吐き気などがある人に有効です。
2-4.柴胡桂枝乾姜湯(さいこけいしかんきょうとう)
虚証向け
神経質で不眠やめまいがあり、虚弱体質で貧血気味、口の渇きがあり、便秘ではない人に向いています。
中耳炎の治療にも適しています。
2-5.八味丸・八味地黄丸(はちみがん・はちみじおうがん)
虚証向け
高齢者に用いられるtことの多い漢方で疲労倦怠が激しく寒がりで、手足の冷え、夜中にトイレに行くような人に向いています。
腎虚によく効く漢方です。「腎」を元気にして改善を図ります。体力のある人には不向きです。
2-6.釣藤散(ちょうとうさん)
虚証向け
高血圧や動脈硬化に伴う耳鳴りに有効です。
慢性的な頭痛、めまい、肩こりがある人に向いています。
特に朝方に起こる頭痛、頭重感に良いとされています。
頭痛に伴う耳鳴りやめまい、肩こり、うなじのこり、不安焦燥感、睡眠障害の症状もあわせて改善します。
2-7.茯苓飲(ぶくりょういん)
虚証向け
胃下垂、胃アトニーがあり、胃内停水が原因で起こる耳鳴りに用います。貧血持ちで脈が弱く、つかえ、食欲のない人に合う処方です。
吐き気、胸焼け、ゲップ、尿量の減少などを伴う胃炎、胃下垂などにも用いられます。
2-8.小柴胡湯(しょうさいことう)
虚証向け
胃腸や肝臓、呼吸器などに作用して免疫機能を整え炎症を抑える働きが有り、さまざまな病気や症状に効果を発揮します。体力が中くらいで、肋骨の下あたりが貼って苦しい(胸脇苦満)、口内の不快、吐き気、食欲不振、倦怠感がある人に用いられます。
2-9.当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうききぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)
虚証向け
血行をよくして冷えた体を温め、冷えによる痛みを取ります。
婦人病の妙薬とされ多くの婦人科系疾患の薬に配合されています。
冷え性の改善、体力がなく手や足の冷えがひどく、しもやけができやすい方に向いています。
実証タイプの人の耳鳴りの漢方薬
実証タイプとは疲れにくく体力があり顔色は赤く、便秘気味で活発な性格の人を差します。
実証タイプの耳鳴りはストレスがきっかけとなり急に雷のようなごーごーとした耳鳴りや、ザーザーとした波のような音に聞こえる場合が多く、手で耳を抑えても軽減しないようなものが特徴です。
実証タイプの耳鳴りには肝と胆がポイントです。
精神状態の不安定な人短気な人は肝や胆の働きが亢進してイライラ感、怒りっぽいといった興奮状態が出やすく、胆・肝系を通る気・血の乱れを誘発します。
このタイプの耳鳴りには自律神経の興奮を抑制する龍胆草(りゅうたんそう)の値を配合した龍胆瀉肝湯のような処方が用いられます。
2-10.龍胆瀉肝湯(りゅうたんしゃかんとう)
実証向け
泌尿器などの炎症に用いられる漢方で、体力が中くらい異常の尿道炎、子宮内膜炎、排尿困難などの症状に効果があります。
2-11.柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)
実証向け
体格がよく、脈や腹力もしっかりしているのに神経質で不眠やめまいがある方に向いている漢方薬です。
神経症、不眠症、うつあるいは、高血圧や、動脈硬化症、慢性腎臓病などに伴う症状の改善に使われます。
イライラを静め、「肝」をリラックスさせます。
2-12.防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)
実証向け
中耳炎の治療に用います。体力のある、肥満体質の人でお腹が膨れていて便秘がち、肩こりや頭痛のあり、慢性化した中耳炎に適しています。
余分な熱を取るような生薬が配合され、脂肪細胞を活性化して消費エネルギーを高める作用があることも分かっています。睡眠時無呼吸症候群が改善した例もある漢方薬です。
参考文献:症状別 病気別 やっぱり漢方が効く! 著者 矢数 圭堂
参考文献:NHKきょうの健康 漢方薬辞典 監修 嶋田 豊
まとめ
耳鳴りに有効な漢方薬をご紹介しました。
原因のわからない耳鳴りには漢方を利用することで改善が期待できます。