更年期の治療で代表的なのはホルモン補充療法です。飲み薬、塗り薬、貼り薬によって女性ホルモンを補う治療になります。 しかし場合によってはホルモン補充療法を行うほどではなかったり、ホルモン補充療法だけでは効果がないこともあり、それらの症状には漢方薬治療が見直されています。 漢方は複数の生薬からできており、いろいろな症状に対応できます。漢方の独特の考え方のもと、障害の原因を取り除いて体の調子を整え、病状の改善をしていきます。 また副作用が少なく、長い間の服用ができることが漢方薬の利点です。 ここでは更年期障害に効果的な漢方薬について詳しくご紹介します。
1.代表的な更年期障害のための漢方薬
1-1.更年期障害の三大処方と効果
まず3つの代表的な漢方薬の効果を実証した研究をご紹介します。 東京医科歯科大学病院の久保田教授の研究によると三大処方と呼ばれる当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)、加味逍遙散(かみしょうようさん)、桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)について以下のような効果が明らかになりました。
表.更年期障害に対する漢方三大処方の効果
効果 |
当帰芍薬散 |
加味逍遙散 |
桂枝茯苓丸 |
寝付きがよくなる |
– |
○ |
○ |
睡眠中に目が覚める時に |
○ |
○ |
○ |
眠りを深くする |
– |
○ |
– |
発汗や循環器症状に効果 |
– |
– |
○ |
頭痛やめまいに効果 |
– |
○ |
– |
上記の表をまとめると次のようになります。
当帰芍薬散…睡眠中に目が覚めない
加味逍遙散…寝付きがよくなる、睡眠中に目が覚めない、眠りを深くする、頭痛やめまいに効果
桂枝茯苓丸…寝付きがよくなる、睡眠中に目が覚めない、発汗や循環器症状に効果
出典:http://wol.nikkeibp.co.jp/article/column/20110726/111651/
病院や薬剤師のいる薬局に相談してもまずはこの三大処方のなかから選ばれることが多いようです。
2.症状と体質別|更年期障害に効く、漢方はコレ!
次に更年期障害の症状に合った漢方をご紹介します。 まずは自分の症状から漢方を探しましょう。 漢方には独自の概念に基づいて「気・血・水」と呼ばれるものがあります。これらのどれかが滞っているか、不足した状態になると体に不調を感じます。これを正常なバランスに戻していくということが漢方の役目です。 ※表中の「気・血・水」と「証(しょう)」については、表より下の項目で詳しく説明しています。
症状 |
漢方薬名 この漢方にあった |
向いている体質 |
特徴 |
●肩こり ●頭痛 ●冷え ●のぼせ ●めまい ●不安・イライラ ●倦怠感 ●自律神経失調症など |
加味逍遥散 (カミショウヨウサン) 虚証 |
虚弱で疲れやすい女性 | 更年期の諸症状に 更年期症状の代表的な漢方です。漢方薬局、病院、ドラッグストアで購入できます。気持ちを穏やかにし、不安な状態から解き放ってくれる効果があります。頭痛やめまい、睡眠障害に効果があります。 |
●冷え性及び、貧血の人の動悸 ●顔色が優れない ●疲労 ●倦怠感 ●息切れ ●不眠など |
柴胡桂枝乾姜湯 (サイコケイシカンキョウトウ) 虚証 |
体力のない人 | 神経の疲れを癒す 体力がなく、疲れやすい人の神経を癒します。春先に気分が落ち込む人にも向いています。 |
●のぼせ ●頭痛 ●不安感などの症状に |
桃核承気湯 (トウカクジョウキトウ) 実証 |
体力のある人 | ほてりやのぼせに 実証で便秘気味、ほてりやのぼせがある人の血の巡りをよくします。 |
●貧血気味で冷え症 ●疲れやすい ●月経のむくみ ●日常的な肩こり ●全身倦怠感 ●動悸がひどいなどの症状に |
当帰芍薬散 (トウキシャクヤクサン) 虚証 |
比較的虚弱の女性 | 貧血症状を改善 貧血気味で疲れやすく、むくみやすい人の血の流れをスムーズにします。更年期の睡眠途中で目が覚めてしまう症状に効果があります。 |
●冷え性で体力がない人 ●月経不順 ●肌荒れ ●下腹部の冷え ●膨満感 ●のぼせ ●腹痛などの症状に |
温経湯 (ウンケイトウ) 虚証 |
体力低下気味の女性 | 下腹部の冷えに 冷えた下腹部の血流をよくして改善します。月経不順・不正出血などに効果があります。 |
●のぼせ ●手や脚の火照り ●皮膚のかさつきなどの症状に |
温清飲 (ウンンセイイン) 中~虚証 |
体力が中程度 | ほてりやのぼせに 更年期ののぼせ、火照りの症状を改善します。 |
●のぼせ気味 ●赤らみ ●イライラ ●不眠 ●精神不安 ●軽い膨満感 ●皮膚のかゆみなどの症状に |
黄連解毒湯 (オウレンゲドクトウ) 実証 |
体力のある人 | のぼせに 体力が中程度か、それ以上の方に向いているのぼせの漢方です。イライラや頭痛や耳鳴りを抑えます。 |
●のぼせ気味 ●赤ら顔 ●左右の下腹に圧痛 ●肩こり ●めまい ●膨満感 ●冷えなどの症状に |
桂枝茯苓丸 (ケイシブクリョウガン) 中~実証 |
体力は中くらい | のぼせ、肩こり、赤ら顔に 血の流れをスムーズにしてのぼせや肩こり、赤ら顔に効果があります。睡眠の改善にも効果がります。 |
●みぞおちから肋骨に圧痛がある ●不眠 ●頭痛 ●肩こりなどの症状に |
柴胡加竜骨牡蠣湯 (サイコカリュウコツボレイトウ) 中~実証 |
体力は中以上 | 精神不安定、不眠、のぼせに ※虚弱の人は効果がありません。哺乳動物の骨や牡蛎などの粉末が入っており心身の機能を正常にします。 |
●のぼせて赤ら顔 ●イライラ ●落ち着かないような神経症状のある方に |
三黄瀉心湯 (サンオウシャシントウ) 実証 |
体力のある便秘がちの人に | イライラや便秘を鎮める 上半身の充血があり、のぼせ気味で顔が紅潮している人のイライラを鎮めます。 |
●冷え ●めまい ●吐き気 ●偏頭痛のときにのぼせを感じるひとなど |
五苓散 (ゴレイサン) 虚~実証 |
体力はあるなし限らない | 水分の循環をよくします 体内に余った水分を調整する働きがあます。むくみ、めまい、吐き気に適応します。 |
●頭痛 ●偏頭痛 ●持ちで手足の冷え |
呉茱萸湯 (ゴシュユトウ) 虚証 |
虚弱体質に | 更年期からくる頭痛に 頭痛や嘔吐をしずめます。水毒からくる慢性的な頭痛を鎮めます。 |
●めまい ●頭痛 ●吐き気 ●胃腸が弱い ●冷え症 ●体力のない方に |
半夏白朮天麻湯 (ハンゲビャクジュツテンマトウ) 虚証 |
体力のない人 | めまいのひどい人に 胃がもたれチャプチャプする感じ、冷えのある方のめまいに効果があります。 |
参考文献:簡単に手に入る119種 やさしい漢方 よく効く漢方 著者:新井基夫
出典:http://www.jah.ne.jp/~kako/
出典:http://www.yomeishu.co.jp/genkigenki/feature/130829/
3.漢方を選ぶ前に
漢方は「気・血・水」と呼ばれる概念があります。 これらは「体を構成する要素」として考えられており、それぞれが相互に影響を与えているのです。
これらのどれかが滞り、バランスが崩れると体調が悪くなります。 気血水のバランスを崩す原因は偏った食事や、ストレス、運動不足など様々な要因が関係しています。この三つを体の中でスムーズにめぐらせ、体のバランスを整えることが漢方の治療といえます。 さらに気血水は気虚、気うつ、気逆、血虚、お血、水滞の6のタイプに分けられますからまず、自分がどのタイプに当てはまるか見ていきましょう。 あなたのタイプがわかったら、それを改善するための漢方を合わせて紹介しています。
3-1.「気」
まず気とは、目に見えない生命のエネルギーのことで「元気」「気力」など体における精神的・機能的は活動に関わる要素として捉えられています。血や水をスムーズに動かし、体温調節をする役割があります。
タイプの名称 |
症状 |
気虚タイプ | だるい、疲れやすい、声・目に力がない、食欲不振など気が不足することによって起こります。 |
気うつタイプ | 気の流れが滞るとゆううつ、のどのつかえ、胸の詰まった感じ、おなかが張るなどの症状が出ます。 |
気逆タイプ | 気が逆流すると冷えやのぼせ、頭痛、動悸、驚きやすい、不安感、発汗、ゲップが多いなどの症状が出ます。 |
気の改善には
●加味逍遥散(カミショウヨウサン)
●柴胡桂枝乾姜湯(サイコケイシカンキョウトウ)
がよいでしょう。
3-2.「血」
血とは、血や、血液の働きのことで、全身に栄養を送ったり、各器官を潤す役割があります。不足すると、女性特有の病気を引き起こします。卵巣やホルモンの機能が弱くなるのも関係します。
タイプの名称 |
症状 |
血虚タイプ | 血が不足すると顔色が悪く皮膚の乾燥、頭髪が抜けやすい、手足のしびれ、目の疲れなどの症状が出ます。 |
瘀血(おけつ)タイプ | 女性に多いのが血が停滞する瘀血です。月経不順、不眠、不安、腰痛、便秘、肩や背中がこりやすい、あざができやすい、色素沈着、眼のクマができやすいなどがあります。 |
血の改善には
●桂枝茯苓丸(ケイシブクリョウガン)
●当帰芍薬散(トウキシャクヤクサン)
●桃核承気湯(トウカクジョウキトウ)
がよいでしょう。
3-3.「水」
水は血液以外の汗、胃液、涙、尿など体の中の水を指します。代謝や免疫との関係が深いものです。水が不足すると熱が体内にこもってしまい、体内の乾き、乾燥を感じやすくなります。
タイプの名称 |
症状 |
水滞タイプ | 水の流れが滞ると体のむくみ、胃からぽちゃぽちゃ音がする、尿量が少ない、天候によるめまい・耳鳴りなどがおこります。 |
水の改善には
●五苓散(ゴレイサン)
●呉茱萸湯(ゴシュユトウ)
●半夏白朮天麻湯(ハンゲビャクジュツテンマトウ)
がよいでしょう。
出典:http://www.rakuten.ne.jp/gold/aoidou/kikaku/type/taisitu.html
参考:http://www.nikkankyo.org/publication/pamphlet/11/05.html
4.証とは?
漢方にはもうひとつの概念として、その人の体質や体力、症状や体格を表す「証」と言われるものがあります。 固太りのがっちりした体格の「実証」、水太りかやせ形の「虚証」、その中間の「中間証」の3つに分け、「証」にあった薬が処方されます。
例えば… 同じ更年期の女性でも、虚弱体質で、胃腸が弱く、寒がりであれば「虚証」に分類されます。 その方が不安やのぼせ、肩こりがあるといった場合には上の表の「虚証」で「お血」タイプに効く「加味逍遥散」が適しています。逆に体力があり、胃腸が強く、暑がりであれば「実証」になりますから、同じ症状でも桂枝茯苓丸が適しています。 同じ症状でも自分に合う漢方を他人が処方しても効果が現れないケースがあるのはこの「証の違い」や「体質の違い」があるためです。 自分の「証」を理解して漢方を選ぶ参考にしてください。
虚証・実証をセルフチェックしたい方はこちらのサイトがおすすめです。
参考リンク:http://www.yomeishu.co.jp/genkigenki/feature/130829/
まとめ
漢方は副作用が少なく、自分にあったものに出会えれば、効果を得られます。自分の証、気血水に合う漢方を見つけて服用してみてください。自分のタイプがよくわからない場合には、薬剤師や医師に相談することをおすすめします。